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「吾、汝の言に反対す。されど吾、汝の、その言を言うの権利、死に至るまで擁護せん」。学生時代に出会った言葉です。政治をめぐる意見に賛成、反対はつきもの。お互いを尊重しつつ、意見を述べ合いたいものです。 ・
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脱線、緊迫の瞬間――。運転士、車掌の心をよぎったのは何か?
2005年 04月 30日
(※長くなってしまったので、お急ぎの方は小見出しのみ、どうぞ。)
JR福知山線の脱線事故について、昨晩、NHKスペシャルを見た。 そして、記事もさまざま読んだ。 ありがちな表現だけれど、事故は起こるべくして起こった――と、 そう書くしかないのではないか。そんな気持ちになった。 ●あがいても……、抗えない運命に吸い込まれるように。 しかし、その一方で、事故の瞬間に、 こんなことに巻き込まれまいとあがき、うめいた、 人間のドラマもあった――と、感じ始めている。 乗客にあったのはもちろんのことだが、 それは運転士、車掌、指令たちにもあった。 なのに……、人の力ではどうしようもない、抗えない運命が、 ぽっかりと口を開けて待ち構えていて、その中に飲み込まれてしまった。 ※※ ●運転士。ブレーキレバーを握り締めたまま絶命……。 昨日、29日、事故車両を運転していた運転士、高見隆二郎さんの遺体が収容された。 高見運転士は、ブレーキレバーを握りしめたままの姿で、運転台と壁にはさまれ、 血だらけで息絶えていたのだという。 彼自身の運転の未熟さから、判断の誤りから、 事故の引き金が引かれた責任は否定できないと思われるけれど、 彼もまた、当然のことながら事故に遭いたいなどと考えて、 運転をしていたわけではない。 最後の瞬間、必死に抗ったのだろうが、 彼自身の力では、否、それが誰であろうと、 人の力では、もはやどうすることもできなかった。 ※※ ●25日、午前9時過ぎ――。通勤・通学の車両。 事故の起きた25日の朝、ピークは過ぎたとはいえ、 その列車にはおよそ580名が乗車していた。 通勤、通学などの客で、かなり混みあった状態だった。 ダイヤも、依然として過密な時間帯で、 運転士、車掌は秒刻みで運行することを強いられていた。 運転士の高見さんは23歳。高校を卒業してJR西日本に入社、 車掌勤務を経て運転士の試験に合格。 運転士としての経験は、その日までで11ヶ月。 その日その日を送るだけで精いっぱいの彼にとって、 通勤時間帯の快速電車の運転は、ひどくプレッシャーのかかるものだった。 ※※ ●「超マジメ」と、運転士の同級生。誇らしいはずの職場が……。 高校時代の友人の高見さん評は、一致して「超がつくほどマジメ」――。 バスケットボール部に所属し、彼を「ムードメーカーだった」と話す友人の声も聞いた。 また、JR西日本に入社が決まったときには「満足げだった」と話す友人も。 すこし、誇らしい気持ちだったのだと思う。 そんな青年が、プレッシャーに満ちた職場で、 理想と現実の落差に戸惑いながら、生きていくことになった。 ※※ ●速度競争を組織に強いたJRの幹部たち……。 JR西日本は、民営化後、関西圏における私鉄路線との競合を強いられていた。 かつては親方日の丸で、車両がガラガラでも給料の心配もなければ、 失業の不安もなかった。 それが民営化後、一転して採算性を問われ続け、 スピードで勝ることによって、乗客の確保を考えるようになり、 車両の高速化、ダイヤの過密化に走った。――とは、 さまざまなニュースの報じるとおり。 こうした管理部門の効率性重視の姿勢は、その裏側で 現場に負担を強いることになり、しかもその繰り返しになっていた。 ※※ ●そして謝罪し、賞与返上を発表したJRの幹部たち……。だが。 事故後、JRの幹部が記者会見や遺体安置所で お詫びの言葉を述べていたが、そんなのは、笑止――。 また、役員賞与を、たしかこの先1年間、凍結するなどの 措置も発表されたと思うが、それまた笑止の上にも笑止。 彼らは会社のヒエラルキー(権力構造)の頂点に立ち、 貴族然とした身なりに身を包み、下層の社員、現場の社員を、 奴隷のようにこき使ってきただけの存在だったのだ。 ※※ ●東京都内、踏切事故の会社に似る、JRの空気――。 先ごろ、東京都内で起きた私鉄踏切事故のときに、 その私鉄会社に感じた空気と同じ空気を、今回も、JR西日本に感じている。 ※※ ●直後に、運転士の処分歴を発表したJR西日本……。 事故後、JR西日本は高見運転士の処分歴について、間に髪入れず発表した。 昨年6月には約100メートルのオーバーランを起こしていた。 また約2年前には、車掌として阪和線の車両に乗務中、 乗客から居眠りを指摘され、厳重処分を受けていた。 非常ベルの作動を怠り、訓戒処分を受けたこともあったという。 その事実は否定しようがないけれど、その背景は、JRから説明がなかった。 また、置き石の可能性についてもJRから発表があったが、その後の検証から、 これは保身の匂いが濃いものであったと、誰しもが感じているとおり。 ばかばかしくも感じられ、このエントリーでは割愛する。 ※※ ●もうこれ以上、処分は受けられない――と、運転士。 高見運転士は、事故のその日までに、もうこれ以上、 処分を受けることができない心理状態に、追い詰められていた。 処分を受ける――とは、運転士に対する再教育を意味するとのこと。 その内容の苛烈さについても、数多くの報道がある。 この、再教育の苛烈さがもとで、ある運転士は自殺にまで追い込まれ、 遺族が裁判を起こし、判決で、自殺の原因として認定されたケースもあるくらいなのだという。 鉄道会社にあって、運転士は現場の職務担当として、花形なのかもしれない。 どの会社であっても、車掌などの通常勤務経験ののち、 試験を受けて運転士となっていく。 選ばれて、就くことのできる仕事なのだ。 ところが、プライドを持たされた人間が、再教育の名のもとに、 それを一時なりとも剥奪、蹂躙されるのは、逆に耐え難い苦痛――となるのだろう。 再教育は運転士にとって、「懲役刑」にも等しいものだった。 ※※ ●「再教育」は懲役刑。運転士を運転ロボットに変える場――? 列車の運転からはずされ、罵声、罵倒、草むしり、トイレ掃除。 同僚の視線にさらされながら、1日に何度もの反省文書き……。 自分を貶めないことには、そこから逃れることができない。 しかも、その間、実質的には給料の一部になっているはずの乗車手当てが、 一切支給されず、経済的にも苦しめられる。 そして……、昇進、賞与、昇給にも響いてくる。 さらに再教育が重なっていけば、最終的に運転士資格の剥奪がある。 組織の側からすれば、再教育への恐怖心によって、 運転士を運転ロボットに変え、効率化、速度アップと 間違いのない運行を両立させようとしているのかもしれない。 ※※ ●どうして、40メートルもの距離をオーバーランしてしまったのか。 効率化を追求する経営のなかで、運転士、車掌などの現場は、 ふだんから過酷な勤務を、「通常」の状態として強いられていた。 高見運転士も、事故を起こす1日前に宿直勤務があり、 その日はその日で、通常勤務になっていたらしい。 どうして、一つ前の駅で、40メートルもの距離を オーバーランしてしまったのだろうか……。 解明されていない部分ではあるけれど、 彼の心身の状態は、すでに余裕をなくしていたのだろう。 ※※ ●車掌室への、運転士からの電話……。「負けてほしい」と。 ホームの、定位置に列車を止めることができなかった。 それどころか、7両編成の前半分ほどの車両が、ホーム自体から外れてしまった。 頬を汗がつたう……。 車内電話で車掌に連絡する。 「(オーバーランが)なかったことにしてくれへんか」 「それはちょっと、無理や」 「そんなら、負けといてよ。お願いや」 車掌は高見運転士が車掌時代、同じ車掌区だったことがあり、 顔見知りだった。車掌はオーバーランが発生した場合、 指令に報告の義務があるが、これまでも過少報告をしたことは、たぶんあった。 高見運転士の人柄、もともとの真面目さも知っていた。 処分を幾度か受け、厳しい立場に立たされていることも知っていた。 温情が沸いた。 「8メートル、オーバーランしました」 彼が指令所に報告した距離だった。 ※※ ●無謀な運転に追い込まれていく運転士……。 高見運転士は遅れを取り戻そうと、まなじりを決した。 通過駅の戸口を過ぎてからの、直線の4・3キロ。 ここで取り戻すしかない。 速度をめいっぱいに上げるしかない。 彼自身、いままで出したこともないスピード。 車体が風に揺れ、うなるのだが、それを恐怖に思う余裕すらなくしていた。 実はその区間は、運転士仲間では、遅れを取り戻せる唯一の場所として、 半ば「常識」にさえなっていた――。 カーブの手前まで速度超過のまま走り、ブレーキをかけ減速。 1度や2度、程度はともかく、どの運転士も経験していることだった。 ※※ ●指令所からの、2度の電話に出なかったのはなぜか……? 通過駅を過ぎたところで、運転席に指令所から電話が入っていた。 2度、あった。指令所では車掌からのオーバーランの報告を受け、 列車の遅れ具合などを直接確かめようとしたらしい。 しかし、そのとき、彼はどうだったのか――。 すでに、電話に出るだけの余裕がなかったのかもしれない。 軋む車体に、ハンドルレバーを握り締め、格闘の最中だったのかもしれない。 ブレーキレバーを引き、必死だったのかもしれない。 列車は直線で最高速度の120キロを出していたし、 それをカーブの前に減速しなければならなかったのだ。 また、電話に出ようと思えば出られたのだけれど、 オーバーランについて、運転中にもかかわらず叱責を受けるのは耐え難く、 せめて時間を取り戻してから応答したいと考えたのかもしれない。 とにかく、指令所からの、2度の電話に、彼は出なかった――。 ※※ ●オーバーランの対応に追われる車掌――。 後部車両にいた車掌は車掌で、 オーバーランのあと、対応に追われていた。 運転席、運転士との連絡、確認。バックの確認。車内放送。乗客の乗降……。 高見運転士からの、報告についての手加減の懇請。 指令所への連絡――。 乗客へのお詫びの車内放送。 そしてざわつく車内――。客からの文句が、車掌室のなかまで 響いてくるような気持ちになっていた。 「阪急より100円も余計払ってんのや。それで電車が遅れたらしょうもないやんか」 「いっそがしいのに、困るなぁ。サギや、こんなン。カネ、返せ」 「たるんどるんとちゃうか、JRは」――。 列車の遅れに、車掌や駅員が、 客からこんな罵声を浴びせられるのは、日常だった。 ※※ ●事故現場、1キロ手前――。緊急連絡、事故。 列車の速度が上がるのは、オーバーランした場合、 多かれ少なかれ、いつものことだった。 しかし……、どうも、いやな揺れだ。 速すぎるのではないか。 運転席へ電話を入れる……。応答なし。 車掌も異常さに気付きつつあった……。 まずい、と思い始めていた。 不安がこみ上げてきた。 あっ……と、思った。 「カーブにさしかかるのに、こ、この速度では、無理だ……」 事故現場、1キロ手前に迫る中、無意識に電話機を取り上げた。指令所へ。 「こ、この電車、脱線するかもしれませんッ!」 「なにィッ、おいッ、どうしたんだッ!」 「…………あ、ああ、うわあッ」 軋み。揺れ。急ブレーキ。激しい振動。突然の大音響。衝撃――。 悲鳴、焦げる匂い……、サイレンの音。 ※※ ●「俺の電車、脱線してしもうたんや……」と、車掌。 列車が止まって、車掌は呆然とした。 指令所に緊急連絡をしていた電話器を握り締めたままだった。 「脱線しました」。 少しして、言いようもないほど情けなくなり、悲しくなった。 早く前の車両に行って状況を確認しないと、と考えつつ、 意識してそうしたのか無意識だったのか……、 彼は自分の携帯電話を取り出し、自宅、自分の妻に電話した。 「俺の電車、脱線してもうたんや……」 「え、え、大丈夫なの? ケガは――?帰ってこれるのッ?」 「もう1本、電車に乗らなあかん。帰れんかもしれん……」 ちぐはぐなやりとりだった。 ※※ 107人の死亡と450名を超える負傷者を出した今回の事故――。 多くの方々の命が、人生が、一瞬にして失われてしまった。 事故を取り巻く状況、背景、さまざなな問題を考えると、 事故は起こるべくして起こった。 でも、その気になって、防ごうと思えば防げた。 会社にも責任があるし、それが公共の輸送機関である限り、 国土交通省の管理にも問題がある。 当事者たちの責任は重いと思うが、私たちの社会、私たち自身にだって、 振り返らなければならないことがある。 きつい話だと思う。 ※読売、朝日、毎日、サンケイ、日経、東京新聞、なにわWebの各サイト、 NHKスペシャル、河北新報等を参考に再構成し、筆者自身の推論を加えました。 ※よろしければ、今日もクリックを!→ Blog Ranking
by yodaway2
| 2005-04-30 15:34
| 社会の問題、世相さまざま
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